'93年に『障害者が恋愛と性を語り始めた』、'96年に『知的障害者の恋愛と性に光を!』、そして'01年『ここまできた障害者の恋愛と性』と、障害者の恋愛と性をテーマにした本を上梓してきた「障害者の生と性の研究会」。障害がある人にとって、恋愛や性にまつわる悩みや不安とは? 10年近くにわたって障害のある人たちへのインタビューを重ねてきた研究会の代表・河原正実さんに、取材を通じて見えてきた問題や社会の変化とともに生まれてきた新たな課題などについてうかがいます。
障害者の「生の叫び」が聞きたかった
・・・そもそも「障害者の生と性の研究会」ができたきっかけは何だったのでしょう?
話は'92年に遡るんですけど、兵庫県西宮市にある障害者団体「メインストリーム協会」の機関誌に、重度の障害がある男性が介助者といっしょにソープランドへ行った体験記が載ったんですね。「生まれて初めての体験だった。応対をしてくれた人がとても親切で、看護婦さん以上の能力だった」というような内容でした。これを朝日新聞が取り上げて、大きな反響を呼んだんです。僕も「おお、面白いなあ」と思い、さっそく協会に連絡をとって機関誌を送ってもらったりしていたんですよ。
ところが、新聞記事の反響があまりに大きくて、協会は「第二弾」をやらなきゃいけない状況になったんです。そこで女性問題をやっている大学教授や北欧の福祉先進国の研究をしているジャーナリストや人権問題をやっている研究者たち4〜5人を集めてシンポジウムを開くという知らせがきました。
それで僕の仲間である新聞記者と障害がある女性の二人が聴きに行くことになったんです。実は僕、パネリストの顔ぶれを知って「あんまり面白くないんじゃないかなあ」と二人に言ったんですよ。そうしたら案の定、帰ってきた二人が「全然、面白くなかった」って(笑)。
・・・どんなところが面白くなかったんですか?
まず、この話題の出発点となった、ソープランドへ行った当事者がまったく出てこない。そしてジャーナリストや教授が「差別を受けている風俗で働いている女性に、差別を受けている障害者が出かけて行ってセックスをしている。これは何の問題解決にもなっていない。差別の二重構造だ」と主張する。一から十までその話で終わったんですって。
参加した二人は、「差別の構造なんて、今さら言われなくてもわかっている。そのうえで障害者の生の叫び、生の苦悩が聞きたかったのに、それは誰も話してくれなかった」とガッカリしてるんです。「それならしょうがない。福井でつくろうか」ということになって、'93年の5月に研究会をつくりました。