なりたい自分になる、好きなことを仕事にしたい、やりたいことがわからない──。進路の悩みに直面している高校生はどれくらい必要な情報を得ているのでしょうか。情報過多の時代といわれながら、人と人が直接会って聞きたいことを聞く、相談するという機会はぐんと減っています。こうした中で、NPOカタリバが実施している大学生、社会人による進路相談が高校生の気持に前向きな変化をもたらしています。「人と人が出会ってちがう気持が生まれる」。大学時代にその大切さを実感した中澤久美さんと竹野優花さんが高校生にこそ出会いの場をとカタリバを立ち上げました。二人がそれほどまでに大切だと考えた「出会い」とは。
── 「大学生や社会人との出会いによって高校生のやる気を引き出す」という活動をされていますが、お二人はどのような高校時代を過ごされましたか。
中澤 私は地方の高校生でした。大学進学率20%、クラスの半分が就職希望という学校で全体に空気が停滞していたというか・・・。
── じゃぁ、彼らに対して「どうしてがんばらないんだ」という不満があった?
中澤 とんでもない、上からの目線で何かを言える立場ではなかったですね。私がその下の方にいましたから。友だちどうしで話すことといえばテレビの話か恋愛、アイドルのことばかりという高校生でした。
── 竹野さんは?
竹野 東京の進学校でずっと剣道部でした。進学するのがあたりまえで、みんなものすごく勉強していました。
── 中澤さんは進路についてはどうでしたか。友だちと話し合ったりしたのでしょうか。
中澤 友だちには真面目な話はあまりできなくて、国語の先生にこっそり相談しました。生徒のいいところを褒めてくれる先生で、「テレビ局に勤めてみたいんだ~」とか漠然としたことしか話せなかったのですが、いろいろなことを肯定的に受けとめてもらえたんです。それで、高校生なりにその時できることを始めました。
── そのときできること、というのは。
中澤 私の場合は文章を投稿することでした。先生に「こんなのどうかなぁ」って持って行くと「おっ、いいじゃないか。それ、やってみたら」って。認めてもらったことがうれしくて、もうちょっとやってみようかという気持になりました。そしてこれが頑張れたのなら次は受験も、という感じですね。先生が本当にうまく背中を押してくれたなぁと思います。
── 進学校に通っていた竹野さんは、受験するのがあたりまえということでしたが。
竹野 そうですね。周囲には先生になると言っていました。
── 進学校で部活にも熱心で、教師志望。親も先生も心配のしようがありませんね(笑)。
竹野 学校の先生って無難な目標でしょう。これで勉強さえしていたら誰も何も言わないだろうと思っていたところもあるんです。結局部活に気持が入りすぎて受験は失敗しましたが。
── ショックでしたか?
竹野 学生でも社会人でもない、ほんとうにひとりぼっちになった気がしました。だから自分と向き合うことができたと思います。先生になりたいというけれど、いったいどんな先生になりたいのだろう、と考えたのもこの時です。
── 一度、立ち止まったのですね。普通は教員試験合格が目標になりますが・・・。
竹野 大学を卒業して教員試験に受かってそのまま教壇に立つと、視野の狭い先生になってしまうのではないだろうか。教科外のことでも自分の経験からいろいろなことを話せる「引き出しの多い先生」になりたいと思いました。そのためには社会経験の蓄積も必要なので、一度企業に就職してから教員をめざそう、と。
── 具体的な先生像ですね。高校のときにはそうしたことを考えなかった。
竹野 そうですね。部活と勉強の他には、みんなが普通にしていることを何もしなかった高校生活でした。大学も学内だけで4年間を過ごせてしまうような環境でしたが、いろいろなことを経験したくて学外の活動にも積極的に参加していました。中澤さんと出会ったのも学外のNPOイベントでした。
── 別々の大学に通っていた二人が出会うのですね。意気投合して夜明けまで語り明かしたとか。
中澤 竹野さんはとにかく引き出しの多い人で、私が「ねぇねぇ、こういうのってどう思う?」という問いかけをすると「うーん、じつはこんなことがあってね」と自分の経験からいろいろなことを話してくれるんです。こうして話したことがカタリバのベースになっています。
竹野 パソコンを自在に使い、人や情報とつながって外へ外へと活動領域を拡げていく中澤さんの行動力はある意味ショックでした。でも問題意識は共通していて、いつか二人で何かできたらいいね、とずっと話しあっていましたね。
── お話をうかがっていると、お二人は本当にちがいますね。ちがう二人が出会ってお互いのいい面が引き出されたのがよくわかります。でも、社会経験のないまま活動を開始するのは不安ではありませんでしたか?
中澤 もう、気持だけを持って回るという日々でした。カタリバの活動に関心を持ってくださる学校があれば二人で行って、つたない説明を一生懸命するという、そのことの繰り返しでした。でも最初は先生方の反応も「はて?」という感じで・・・・。むしろビジネスの知識や経験がなかったから、余計な計算をしないで動くことができたのかなぁって思います。
── 高校の教室に大学生が話しにくる、というだけで斬新ですね。「はて?」という学校の先生の気持ちもわかります。
中澤 数字が見える活動ではないので、実際に体験してもらうしかありませんでした。いまの高校生にとってカタリバのような活動が必要だと考えてくださる先生に機会をもらい、授業後に、生徒のいい表情を見て「あ、よかったな」と感じていただいた先生の口コミで拡がっていった、という部分もあります。カタリバも機会、ひと、出会いで次につながっていきました。
── 高校生が大学生と出会うと、なぜ気持に変化が起きるのですか?
中澤 まず、見た目や年齢が近くて年上感があるから話しやすいということもあるでしょう。手が届きそうな存在だから「あの人ができたのなら自分もできるかもしれない」という気持を引き出しやすいんです。
竹野 授業の1コマですが、ほぼ1対1のコミュニケーションで生徒の関心事に向き合って話すこと、その効果はとても大きいです。
中澤 大学生と出会った高校生の表情がみるみる間に変わっていく、ということはよくあることなんです。すごい人によって劇的に人生が変わるのではなくて、じぶんが変わるきっかけはごく身近な人との出会いの中にあるんです。そのことに気づいてほしいですね。
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