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介護保険によって変わる家族のあり方

 介護の発想を変え、それを良質の社会的サービスで守っていこうという介護保険。同じ要介護度認定でも、事業者の力量によってサービスの質や量が変わる可能性があるため、ケアプランが気に入らなければ、業者の中身を検証し、レベルの高い事業者に変えればいい。それも方法論だというのだ。その分、市町村は良質の事業者を育成し、事業者も頑張り、高齢者自身も自分の意志を伝え、家族は無理をしないで介護を手放していくことが大切になっていく。家族には、社会的サービスを選択し、助言するといった新たな役割も加わった。介護保険によって最も変わるのは、高齢者を抱える“家族のあり方"だというのである。

岡本祐三さん

 岡本さんに言わせれば、10年前まで高齢者の介護なんて放ったらかしで、マスメディアも人々も関心さえ持っていなかった。ケアマネージメントにしても、その必要性を訴える岡本さんらの意見に耳も貸さず、介護保険スタートと同時にケアマネージャーがあたふたと養成され、その質や問題点ばかりが問われる。また、 介護保険がスタートしてわずか1年でありながら、制度の矛盾やアラ探し的な問題だけが報道される。改革に混乱はつきものであり、制度の本質に目を向けなければいけないと力説する。
 施設も、今までのプライバシーのない4人部屋に疑問を持つべきだという。
「真面目に働き、この社会を築いてきた高齢者がそんな部屋でいいのか。僕は人間の人格や尊厳にとってプライバシーとは侵すべからざるものだと思う。それを施設では、自分で移動の自由はないうえ、24時間他人と強制的に一緒に暮らすなんて、生活権のレベルからいってもおかしいことだ」と岡本さん。施設ばかりか、高齢者の住宅政策すら何もなく、高齢者は保証人がなければアパートも借りることができなかったのが現実である。
「これまで語られなかった問題を、介護保険が全部あぶり出している。この豊かな日本で数多い高齢者の生活感が無視されてきたことに、やっとみんな気づき始めた感じではないでしょうか」

オンブズマンにも気軽に相談しよう


岡本祐三さん 岡本さんも呼びかけ人の一人であるNPO事業「介護保険市民オンブズマン機構・大阪」も介護保険と同時に発足した。利用者と提供側の橋渡し役となる相談ボランティアの育成には、40時間受講料5万円のコースにもかかわらず、一期生で50人の定員に270人もの応募があった。それだけ市民(60歳代中心)の関心は高く、すでに各施設に派遣されている。従来の監視型のオンブズマンとは違う両者のコミュニケーションや気遣いを大切にしたシステムがとられているそうだ。 

 岡本さんは今年夏には大学を辞め、9月から芦屋市で開業し、 現役医師に復帰する。ライフワークとしてきた高齢障害者をサポートする社会システムの土台ができた今、自分自身の生き方を問う意味でも現場に戻り、地域の医者として自分たちで作った制度を自ら検証していくのだそうだ。高齢者の生活と意見に直にふれていかなければ、実のあるものにならないだろうというのである。また、痴呆高齢者の地域でのケアシステムづくりにも取り組んでいく予定だ。

岡本祐三さん岡本祐三・おかもとゆうぞう
1943年大阪府生まれ。 '68年大阪大学医学部卒業。内科学、病理学、公衆衛生学を研究。専門は内科、老年科、医療論。'72年から'95年まで阪南中央病院内科医長及び健康管理部長。現在、神戸市看護大学教授(保健科学、老年医学)、金沢医科大学客員教授、大阪大学医学部講師、大阪地方自治研究センター理事を務める。厚生労働省の高齢者介護自立支援システム研究会委員、ケアマネージャー支援会議委員、痴呆介護研究検討会議委員。経済企画庁の前内閣経済審議会委員。米国NY.Mt.Sinai医学研究所客員教授。介護保険市民オンブズマン機構大阪代表理事。主な著書に『医療と福祉の新時代』(日本評論社)、『高齢者医療と福祉』(岩波新書)、『介護保険の教室』(PHP新書)など。 


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